VOL7「これでどうなる大阪経済」

ハルカスが泣いている?

先日の新聞記事で「あべのハルカス」にある近鉄百貨店が3年ぶりに赤字転落することが発表されました。

日本一の超高層ビルはちょうど1年前の3月に全面オープンしたところです。国内外からも大勢の観光客が訪れ、大阪の新名所として、展望台やハルカスに入る高級ホテルは好調といわれていますが、明暗がはっきりでています。

百貨店の不振が近鉄グループ全体にも波及する恐れがあるなか、好調なホテルや展望台と連携した『オールハルカス』体制での再建を目指すという報道もあります。

カジノや万博の誘致に成功すれば、大阪経済は良くなるという方もいますが、「ハルカス」のいまをみると、大規模な開発だけで景気が良くなるとは、にわかには信じられません。

第7回のフォーラムにしなりでは「大阪経済」について、じっくり考えてみました。

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【報告】高見 一夫 さん

■市民の目線で考えた

今回いただいたお題は「これでどうなる大阪経済」あまりにも大きなテーマです。大学の先生でもないし、研究者でもない。ただの一中小診断士がお話しできることは、中小企業をみてきた経験から、自分の思うこと・感じることを伝えるだけです。そこでいろいろ調べて、勉強をしました。

まず、5月17日に実施される住民投票「特別区設置協定書」を何回も読み、経済政策の部分を探しましたが、何も見つけることができませんでした。

はっきりと書かれていたことは、大阪市を「①5つの特別区に解体」し、「②予算を区・府・事務組合の3つに分ける」ことです。そして、論点は「市民サービスと行政コストはどうなるの?」に集約されているように感じます。

個人的にはお金を握るものは強いので、4700億円が府の財源になると市民サービスは低下し、区役所整備に600~800億円がかかり、調整に手間のかかる巨大な事務組合ができたら余計にコストは上がると考えています。

■いつか来た道?

協定書では何も見つけることができないのに、都構想には3つの柱があります。「①『集権化』による経済成長戦略」「②『分権化』による二重行政の解消」「③『効率化』による住民に近い基礎自治体の実現」。この具体像を知るために、維新の会のマニュフェストを調べてみました。

都構想が実現した際に、大阪都が実施する「大阪広域マニュフェスト」と5つの特別区が実施する「特別区マニュフェスト」を維新の会は掲げています。

大阪広域マニュフェストのなかに「大阪都の経済成長戦略」がありました。大阪都を「国際エンターテイメント都市」として年2%以上の経済成長を達成させるそうです。その具体的な中身は、「大阪万博をやろう」「カジノを誘致しよう」「いろんなイベントをたくさんやろう」「リニア新幹線など交通インフラを整備しよう」といった内容です。

これらの大規模プロジェクトや集客イベントを実現するには、知事への権限集中が必要で、そのためには都構想が欠かせないといったところでしょうか。

つまり、都構想での経済成長戦略の考え方は「中央集権型大阪を作り、内外の都市間競争に打ち勝ち、アジア等の購買力を取り込み、成長を高めること」でしょう。

でも、よくよく考えてください。東京オリンピックが1964年、大阪万博が1970年、その時に新幹線も開通しました。2度目の東京オリンピックが2020年、2度目の大阪万博が2025年、その時にリニア新幹線が開通する。提案している内容は、高度経済成長期とまったく一緒ではないですか。

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■いまどんな選択をすべきか?

高度経済成長ができるのであれば、それに越したことはありません。でも、当時と今では状況が違います。

まず、日本の人口は減少しています。日本のGDPは個人消費が6割を占めています。ここがまず小さくなっていきます。

カジノは過去に大負けした苦い思い出があるので、個人的には嫌いですが、感情を除いても、国内で大阪だけにできるわけではない。ましてや、アジアを見渡すとマカオや韓国、シンガポールにすでにある。その点のマーケティングはできているのか心配です。また、カジノは単なる博打で胴元はもうかるけど、利用者全体でみると必ず負けています。その結果、大阪経済の個人消費は落ちるでしょう。

日銀が円安を誘導し、海外からの観光客も増えて、「爆買」と呼ばれる現象がおきたり、海外の成長力を取り込む観光振興戦略自体は賛成です。新今宮も海外旅行客で賑わっています。でも、中国の経済成長に陰りがみえ、ウクライナ問題やEU、中東など不安定な海外情勢を考えると、そこだけに頼るのは不安です。

集客イベントも一時的効果には期待できますが、『ニーズの先食い』にならないよう、後をしっかり考えないと『祭りのあと』になってしまいます。オリンピックの後は、急速に経済が冷え込むことが多く、2021年は修羅場になるかもしれません。

結局のところ、一時はにぎやかになるかもしれませんが、潤うのは外資系企業や大企業だけで、WTCやATC、フェスティバルゲートの二の舞となるのではと危惧してしまいます。

一方で、お年寄りはすごい勢いで増えて、空家も増えるといったインナーシティ問題や生活困窮者のしごとをどうするかといった視点が、維新の会のマニュフェストには、ほとんどありません。大阪の経済戦略はこれでいいのでしょうか。

■ヒントは身近にある

いま、梅田と阿倍野では百貨店戦争が起こっています。駅前の再開発で新しいビルが建ち、にぎわいができています。これは喜ばしいことですが、ハルカスはお客さんが1.9倍になったのに、売上が1.4倍に伸び悩んで、1450億円の予測が1115億円に下方修正され、20億円の赤字になりました。一言でいえば、店をつくりすぎた結果です。

でも、「店をつくりすぎですよー」という『オーバーストア状態』は、2006年には経産省が指摘していました。また、「大きな店をつくり、人を集める時代は終わり、これからは、お店が地域に近づいていく時代」とも言っています。お年寄りが増えると、郊外型のショッピングモールのように車での移動を強いる集客型ではなく、コンビニでも宅配をはじめたように、御用聞きのような接客型が小売りの中心になるということです。

集客という意味でも多くの人を集めようと開発されたフェスティバルゲートはなくなったけど、昔ながらの新世界はにぎわっています。大規模開発や新しい施設をつくるだけでなく、地域に根付くお店や歴史、文化を大切にする方法もあるのではないでしょうか。

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■懺悔する 元行政マン

元行政マンがこんなことを言っていました。

「これまでは、大阪を元気にしようとしたら、大企業や大きな工場を誘致する方法だった。それらを軸に、地元の産業構造を構築しようと思った。でも、一番大切な地域の企業が元気にならなかった。本当に地域の未来を託せる企業なのか。地域に根差した企業なのか。そうしたことをもっと考える必要があった。」確かに、身近なところでは堺市や尼崎市の大規模工場の誘致が思い当たります。

また、こうも言っています。

「地域に根差している中小企業施策が弱かったが、これからは地域資本を意識的に形成する必要がある。産業振興は3年間だけのものが多く、それが終わると元気がなくなってしまう事例も多い。まちづくりはずーっと続くのだから、そこから産業振興を考えるべき。企業と住民と行政が力を合わせて、まちや産業を育てていきたい。そのためには、住工混在の問題はあるものの、大阪のように産業が集積すること。働く人を育てていくことが大切だ」。

少し専門的な言葉になりますが、大阪府ではこれらの反省から『エコノミック・ガーデニング』の研究を進めています。要は、企業誘致ではなく、地元企業が成長する環境づくりで産業振興をしてみようということです。

■西成をみてみよう

1996年と2012年の統計データの比較をすると、事業所は大阪府が76.8%になり、西成区は59.4%。従業者数は大阪府が84.6%、西成区は72.2%と大阪府より西成区の方が減少傾向は、はっきりと出ています。

確かに、5人未満の事業所は大きく数を減らしました。でも、5人以上の事業所は踏ん張っていますし、20人以上の事業所は、横ばいもしくは増加傾向にあります。

また、医療・福祉は西成区の成長産業です。1999年と2012年で比べると147.8%になっています。全体でみると元気がなくなってばかりにみえますが、細かくみると頑張っているところが見えてきます。これが地域の成長を考えるうえで大切なことです。

■あちこちではじまる新たな動き

小さい動きかもしれませんが、大阪のあちこちでおもしろい取り組みが始まっています。

1つが芦原橋の「アップマーケット」。この5年で難波から芦原橋にかけて、たくさんのマンションが建設され2000人近くの方が流入しています。この住民さんたちにも、もう少し足を延ばして、芦原橋に来てほしいというイメージではじまったイベントです。

そんじょそこらにあるものではなく、こだわりの食べ物や商品を扱うお店が集まるマーケットで、2013年6月からスタートし、毎月第3日曜日の開催で、今では1500~2000人が参加しています。

イベントとしてのアップマーケットは続けながらも、一過性に終わらせないでおこうと、次は芦原橋駅の高架下にあるシャッター通りの再生に取り組み始めています。靴やかばんづくりの店も3軒ありますし、アップマーケットでも店舗を出そうと話し合っています。

こうした動きが何かを呼び寄せるのか、駅近くの古い建物を塗り替えて事務所をつくり、空いたスペースをフリーに使えるスペースにするメンバーも現れてきました。

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もう1つが大東市の「住まいみまもりたい」。ここは地域の困りごとや生きづらさを種に、新しい生活サービスをどんどん生み出しています。

もとは粗大ゴミの搬出サービスから始まったのですが、家の中に入ると、いろいろニーズがみえてくる。このニーズをサービスに変え、自分たちのできないことは、地域のいろんな事業所とネットワークをつくって、解決しています。

困りごとや生きづらさ持った人が多く住む西成でも、こんなサービスがスタートしないかと期待しています。

■最後にひとこと

小規模企業振興基本法が2014年からスタートしていますが、名ばかりの法律です。日銀はお金をどんどん刷って、世間ではお金がじゃぶじゃぶあふれているはずが、小規模企業にはお金が回っていません。中小企業が融資を受けるときに応援する信用保証協会は審査を厳格化しました。国など地域を離れたところで応援策を決めても、なかなか機能していません。

これからは、大きなお金ではなく、地元企業の力を引出しながら、ヒト・モノ・カネが回る仕組みを地域で作る時代です。地域の強みは、「消費者が近くにいる」「困っていること=ニーズがわかる」「ニーズをサービスにできる」「顔と顔の見える信頼関係が築ける」ことです。

だから、『地域』と『市民』に権限を渡してほしい。そして市民が主役の百花繚乱の『オール大阪』をつくってほしい。

大阪都構想で描かれた経済戦略は現実とは乖離し、時代に逆行しているのではないでしょうか

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フォーラム西成Vol.7本文

高見氏 当日資料