vol21「人権に関する差別禁止法の課題について」

  はじめに

現在、国会では様々な人権に関する法案が審議されています。まず今年4月には障害者差別解消法が施行され、5月24日にはヘイトスピーチに関する規制の法律が参議院可決後、衆議院本会議で可決しました。そして、LGBT(ここでは「性の多様性」と理解します)対策法や部落差別解消に向けた法案の審議も継続して行われています。
昨今になって人権に関する法案が数多く審議されるようになった背景には次の三つが考えられます。①2020年のオリンピック/パラリンピックの東京開催。これらのイベントには、世界各国から民族・国籍・宗教
・文化・価値観などの多様な背景を持った外国人が大勢やってきます。人びとの多様性を理解し尊重し共有できるよう差別を許さない姿勢を育むには、人権に関する法整備が必要というわけです。
②日本政府・社会に対して国際社会から人権に関する警告がなされています。2014年、日本政府は国連からヘイトスピーチを法律で規制するよう勧告されたものの、日本政府は積極的に動きませんでした。その後、ヘイトスピーチ活動はエスカレートし、とうとう今回規制法の制定となりました。
③法務省の平成28年度啓発活動年間強調事項17項目(その対象は女性、子ども、高齢者、障害者、被差別部落民、アイヌ民族、外国人、HIV感染者やハンセン病患者、刑余者、犯罪被害者とその家族、ホームレス、性同一性障害、東日本大震災被災者など)の実践が求められています。
このような背景から最近、国会での人権に関する審議が多くなり、私たちの学習を重ね考えていきたいと思います。

1.部落差別解消法について

寺本良弘 解放同盟西成支部支部長

 今回の部落差別解消に向けた法案は自民党から提出されました。二階俊博自民党総務会長が議員立法で提案を行うために相当の努力をされたそうです。私たちとしては、部落差別をなくすための法律ができるのは大歓迎です。今回の法案の目的には「基本的人権の享有を保障
する日本国憲法の理念にのっとり、部落差別は許されない」とあり、「国や地方公共団体は部落差別解消に関する施策を講ずること」とその責務が明記されていますが、罰則規定は設けられておりません。つまり、全体として理念法的になっており、解決すべき課題が多くあります。しかし一番大きなことは、ようやく日本の政治が部落差別の存在を認めたことだと思います。
今後の課題として、①部落差別に関する実態調査が必要になりますが、これは当事者が中心となって行うべきであり、隣保館を中心に調査しなければならないと思っています。また②法律成立後も差別を禁止する十分な法律にするための運動が引き続き必要です。(なお、2016年6月1日現在でこの法案は継続審議となっています。)

2.ヘイトスピーチ規制

小林道弘 前大阪市会議員

 ヘイトスピーチを規制する法律が、5月12日の参議院法務委員会で可決、5月24日に衆議院で成立しました。
このヘイトスピ―チの問題は最近各地で相次いで起こっています。日章旗(日の丸)や旭日旗を掲げ、特に在日コリアンを狙い撃ちにしたヘイトスピーチ「朝鮮人のゴミを退治する」「朝鮮人を殺せ」「朝鮮人は一人残らず殺せ」などと大きな声を上げてデモを行い威圧しています。法務省の調べによると、全国のヘイトデモ・街宣活動は2012 年4 月~2015 年9 月までで1152件ありました。これらの行為は、在日の子どもたちも心に傷を受けるなど深刻な人権侵害の大きな社会問題となっています。
国連の人種差別撤廃委員会は2014 年にすでに日本政府に対しヘイトスピーチを法律で規制するよう勧告していましたが、日本政府は積極的に取り組む姿勢を見せてきませんでした。一向に収まる気配を見せないヘイトスピーチ行動に、行政や司法もようやく対処するようになりました。
京都市の朝鮮学校の前でヘイトスピーチを行った男らが威力業務妨害で逮捕され有罪判決が確定したり、民事訴訟でも一昨年、ヘイトスピーチを行った団体側に対し1200 万円の賠償を命じる判決が確定し
たりしています。今年3 月には川崎でヘイトスピーチに反対する男性にけがをさせた右翼団体の男ら4 人が逮捕されています。なお大阪市でも条例が制定されています。被害者救済のための裁判費用支援が大
きな目玉でしたが、条例の全会派一致が優先され実現しませんでした。いずれにしても、今回のヘイトスピーチ規制法の制定は、こうした流れを汲んだものと思われます。
今後はヘイトスピーチの保護対象が課題になります。今回の規制法では、アイヌや被差別部落住民が対象にならない可能性が懸念されます。また、適法でない外国人居住者も対象外に置かれます。これらについては付帯決議などで適切に対処するという修正を行いました。
また、この法律も救済処置や罰則規定のない理念法なので、今後のヘイトスピーチ根絶・差別撤廃に向けたスタート地点として考える必要があります。

3.LGBT関連

西田吉志ワークあい代表理事

 LGBT について差別をなくす動きが活発になったのは、今年2月くらいからでまだまだスタートラインにたったところです。成立まではまだ少し時間がかかる可能性があります。まず、LGBT とはlesbian レズビアン・gay ゲイ・bisexual バイセクシャル・transgenderトランスジェンダーの頭文字です。その人口は日本の全人口の約7%で840 万人といわれています。
多くの人はいじめや言葉の暴力にあっていて、就職などにも大きく影響しています。面接などでカミングアウトすると採用されなかったり、就職しても差別やいじめに合ったり、うつになって自死する人もいます。
このような厳しい実態にもかかわらず日本での法整備はあまり進んでいません。海外ではLGBT に対する差別を禁止する法律があり、台湾では法案が教科書に載っています。また、同性婚は20 数カ国で認めら
れています。日本でもようやく東京都の多摩市で条例ができたり、大阪市淀川区ではLGBT に対する支援を宣言したりしています。最も新しいのが東京都渋谷区の「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進す
る条例」です。
法整備に向け2016 年2 月自民党の中で委員会が設けられ、議論が進められています。そこでは、カミングアウトができず、1人で悩んでいる人の支援に注力する一方で、差別に対する罰則などが設けられて
いません。
LGBT の課題は、たとえば同性婚をしても生活をしていく上での保証が一切ない、などの問題が多くあり、戦争法と同じく憲法論も視野に入れて考えなくてはいけません。

4.障害者差別関連

岡田光司 西成障害者会館職員

 障害者差別解消法が4 月1 日から大阪市で施行されましたが、まずは法律を作る経緯について考えてみましょう。これまで障害者のための法律は障害のない人たちが作ってきました。しかしそのことに疑問を感
じた当事者たちは「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という大きなスローガンを掲げ、全世界の当事者が参加して障害者権利条約を制定しました。日本もこの条約に署名し、国内の障害者のための法律も自分たちが参加して作っていこうという機運が生まれました。そして、民主党政権下で障害者基本法が改正され、共生社会の実現や障害のある人の日常生活を支援し、障害を理由とする差別を禁止する法律として4月から施行されたのです。
障害者雇用促進法では、障害者を雇用で差別してはいけないということや、職場で働きやすい状況になっているかなどをチェックします。今回の障害者差別解消法では、大阪市役所や西成区役所に相談窓口が出来ました。障害者が差別を受けた時に相談できる身近な窓口が設置され、合理的な配慮がなされやすい環境が整いました。しかし、罰則規定がなくあやふやな部分もあります。
障害者の権利条約には障害者を優遇する特権が与えられているのではないか、ということがよく言われますが、決してそうではありません。今後は、障害者が当たり前のように地域で暮らせる生活のしかたや仕組みなどについて議論をしていく必要があると思います。

5.ハンセン病関連

寺嶋公典 部落解放同盟西成支部書記長

 ハンセン病の問題は、感染力が弱く簡単には伝染しないというのが世界的な常識ですが、日本では「らい予防法」の改正が20年前におこなわれ、またこの法律の違憲性を指摘した熊本地裁判決から15年経った今でも多くの問題を抱えています。
近年、ハンセン病をめぐる大きな出来事が三つありました。①日本が戦前に韓国・台湾に設置したハンセン病療養所に収容されていた被害者に対する賠償問題の全面解決、②隔離施設の中で裁判を行っていた「特別法廷」の問題について最高裁判所が過ちを認めたこと、③ハンセン病患者の家族も差別を受けていたとして損害保障を求める家族訴訟が提訴されたことです。
今回は、特に③家族訴訟について説明します。この訴訟は2月25日と3月29日にハンセン病患者の家族など568人の原告によって熊本地方裁判所に提訴されました。当事者本人はもちろん、結婚や就職、人間関係で差別を受け苦労したが、実はその家族も同じように家族の中にハンセン病患者がいるというだけで差別を受け苦しんでいたのです。家族間の亀裂も深刻な問題でした。
家族訴訟を後押ししたのは、ハンセン病患者を隔離する「無らい県運動」の研究や「れんげ草の会」という家族会の情報交換などから当事者の家族が差別・排除されていた実態が解明されたこと、また2015年鳥取訴訟で家族にも被害があると認められたことです。家族訴訟の目的は第一に、家族自身の被害からの解放および元患者と家族との絆の回復です。そのために、訴訟は国に対して全国紙での謝罪広告と慰謝料の支払いを求め、家族被害に対する責任も問うています。
家族訴訟には独特の課題もあります。それは原告の大半が氏名や素顔を明らかにできないことです。このことは現在もハンセン病に対する差別偏見が根強く残っている実態をあらわしており、この解決を見ないとハンセン病の最終的な解決はあり得ません。

フォーラムの声

当日会場でいただいた皆さまのご意見です。

【60 歳代・男性】

 現在の国会の状況を考えると自民党一党だけが強い状況にある。このような状況なら人権法案は通る。その人権の法律を作る際のチェック
ポイントは、①その法律の作成時にどれだけ当事者の意見が反映されているかということ。②謝罪があるのか。差別をなくすということは差別
があったことを前提にするのだから、謝罪が必要です。これがないと法律は不十分で、救済の内容がなく無益な法律になってしまう。

【寺本支部長】

 部落差別解消の法律で考えると、同和対策審議会答申などで当事者の意見はある程度反映されたと思うが、今回の法律でそれが十分かと言われたらそうではない部分もあると思います。

【60 歳代・男性】

 今後運動団体が要求すべきことは、今の若い人たちや子どもたちが部落差別を受ける可能性があるという当事者調査でしょう。

【小林】

 今後国会でいろいろな人権に関する法案が審議されていく背景には、1995年に日本が人種差別撤廃条約を批准して、国内の人権の法整備を行うよう勧告されていることもあります。

【60 歳代・男性】

 外国人が多く来日するオリンピックも大きな要因ですね。また、今回の法律ができたことにより救済の法律ができないとも考えられる。

【小林】

 たしかに今回の法律はすべて理念的であり、規制とか救済とかに発展させていけるかどうかが今後の課題です。

【80 歳代・男性】

 今日の報告によると、いずれも罰則規定がないので実効性に乏しい気がする。これと関わって今後の運動の進め方を検討する必要があると思う。また、沖縄でのデモ行動もヘイトになるという意見もあるように報道関係者への対応も必要ではないか。

【小林】

 今日の人権のテーマは今の政府の動きと連動して考える必要があります。つまり政府与党はどんな大きな流れの中で人権の法律を出してきたのかということ。人権の法律の代わりに厳しい施策がある。例えば戦争法案であったり消費税であったりと、こういうことをしっかり見抜くことも必要です。

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